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この連載は、書籍「写真解説講道館投技」からの抜粋です。(著:醍醐敏郎十段、演技 取:仙石常雄八段、受:佐藤正八段 )

6.朽木倒(くちきたおし)<手技>

「朽木倒」とは、取は、おおむね瞬間的に片手で受の片脚を内側、又は外側からとって引き上げると同時に、受の体を後方へ押し倒す技、及びこれに類する技です。

その1 右手で受の右脚を内側からとって倒す 「朽木倒」
取、受、互いに右自然体に組み、取は、右足、左足、右足と後退し、受の左足、右足、左足を引き出し、左自護体となって両手で下方へ抑えてとまる。
受も左自護体となって踏みとどまる。
取はこの時、両手の引きを緩め、右手で押し気味にすると、受は左足を退き、上体を起こして元の安定した体勢に復そうとする。

その一瞬早く、取は、右足を左足の近くによせ、踏み変えて、左足を受の右外側へ腰を落として大きく踏み込み、受に接近して左自護体になりながら、右手を受の右脚内側から膝裏にあてて抱える。(写真1)

(写真1)
取は、右手で受の右脚を引き上げると同時に、左手を直下に引き下げて、受をその後方へ押し倒す。

取は、受が反動で左足を退く、その一瞬を逃さず、右足、左足と踏み込みながら、右手で受の右脚をとって押し込む、一連の素早い体さばきが必要です。

もし「作り」が不十分な場合、受の体を後方へ押し込みながら、覆いかぶさって倒すこともあります。

次の技法は、「朽木倒」ではありません。

取は、右手で受の右脚の内側を抱え上げながら、左脚を受の両足後ろに深く踏み込んで、体を捨てて倒した場合の技名称は、「谷落」(横捨身技)です。

取は、右手で受の右脚をとって上げながら、左足で受の左足(支え足)にかけて倒した場合の技名称は、「小外掛」です。

応用の技法

1. 自分の技から連絡して「朽木倒」

ア「背負投」から体を反転させて「朽木倒」

    取は、機をみて右「一本背負投」で投げようとしたとき、受が上体を反らせて防御した瞬間、取は、体を反転させて向き直りながら、左足を受の右体側に踏み込んで左自護体となり、右手を受の右脚内側にかけて引き上げ、左手を直下に引き下げて倒す。
    「背負投」とみせかけ、一回転して「朽木倒」に連絡する場合もあります。

    取は、右「一本背負投」をかけると見せかけて、右足を受の右足先外側へ踏み出して軸足とし、体を左回りに一回転して左足を受の右足外側へ踏み込み、受の右体側に接近して左自護体となり、右手を受の右脚の内にかけて引き上げながら、左手を後方に引き下げて押し倒す。(写真2)



(写真2)
イ「肩車」から体を反転させて「朽木倒」

    取は、右「肩車」で担ぎ上げようとしたが、受が上体を後方へ反らせて防御したとき、方向を転じて向き直って、左足を受の右足外側へ踏み込み、右手(受の右脚をとっている)を引き上げ、左手を引き下げて、その後方へ押し倒す。


2. 相手の技から連絡変化して「朽木倒」

  受の右「大外刈」から連絡変化して「朽木倒」
    受が右「大外刈」をかけた瞬間、取は右足を退き、左自護体となって防御しながら、右手で受の右脚を内側からとって上げ、同時に左手で後方に引き下げ、押し込んで倒す。(写真3)

    この技法は、受が「払腰」「釣込腰」などのように、背を取に向けてかける技からも、同様に変化することができます。

(写真3)

その2 左手で受の右脚を外側からとって倒す「朽木倒」
互いに右自然体に組み、受が左足を退いた瞬間、取は、右足を受の両足中間に深く踏み込み、左足も送って、体を接近させながら右自護体になり、左手で受の右脚を外側から、膝裏をとって抱え上げ、右手で受の上体を押せば、受は左足踵に体重がのって崩れる。

その瞬間、取は押し込みながら、左手をさらに引き上げて、受の体を後方へ押し倒す。(写真4)

(写真4)
この方法は(その1)とは、受の脚をとる取の手のとり方が異なっています。(その1)は、受の内側をとる、に対し、(その2)は、外側をとるの違いです。

また(その1)は、右手で受の右脚(内側)を引き上げながら、左手は直下に引き下げるので、両手の作用からみて、その場に倒すことができますが、(その2)は、左手で受の右脚(外側)を引き上げ、右手は後方へ押す作用となるので、受は左足を退いて体を支えながら、後退して防御することができます。投げ倒すためには、取は、両手の働きと同時に、鋭く押し込む出足が必要です。

この技法の場合、取は、左手で受の右脚を外側からとる一瞬前に、右手を受の左襟から右内襟に握り変えて(四指を内)引き下げながら押せば、受の体は、右後ろ隅に体重がのり、(その1)の技法と同様に、その場に投げ落とすことができます。(写真5)

(写真5)
応用の技法

1. 自分の技から連絡して「朽木倒」

ア「大内刈」から連絡して「朽木倒」
    取は、機をみて右「大内刈」をかけると、受は、刈られた左脚を上げて応ずる。

    この瞬間、取は、右手で受の上げた左脚を外側からとって上げながら、左手を引き上げて、受をその左後ろ隅に押し込んで倒す。

    次の技法は、「朽木倒」ではありません。

    取は、同様に右手で受の左脚をとって上げながら、右足で受の右足を内側から刈った場合の技名称は、「小外刈」です。


イ「小内刈」から連絡して「朽木倒」

    取は、機をみて右「小内刈」をかけると、受は、刈られた右脚を上げて応ずる。

    この瞬間、取は、左手で受の上げた右脚を外側からとって上げながら、押して倒す。

    次の技法は「朽木倒」ではありません。

    取は、同様に、左手で受の右脚をとって上げながら、右脚で受の左脚を内側から刈って倒した場合の技名称は「大外刈」です。

    左手で受の右脚をとって上げながら、右足を受の左足外側にかけて倒した場合の技名称は、「小外掛」です。


ウ「背負投」から連絡して「朽木倒」

    取は、右「一本背負投」をかけると、受は、上体を反らせて応ずる。

    その瞬間、取は、体を反転させて向き直りながら、右腕を返して受の右脚の外側にかけ(相撲の「外無双」のような形)、左足を受の右体側へ深く踏み込んで左自護体になり、左手を引き下げ、上体を前(受の後方)へのせかけて倒す。(写真6)

(写真6)
    この技法は、右手の使い方が異なります。右手は受の右脚を引き上げる働きは弱いので、右腕を受の右脚にあてたまま、上体をのせかけ、押し倒して決めます。

2. 相手の技から連絡変化して「朽木倒」

受が右「膝車」をかけてきたとき、取は、右足を受の両足の中間に踏み込み、右自護体となりながら、左手で受の右脚を外側からとって引き上げ、同時に、右手で受の上体を押して倒す。

受が「支釣込足」などの足技をかけてきたときも、この技の機会です。


その3 「朽木倒」(その1)と「掬投」(その3)との違い

「朽木倒」(その1)は、
片手で受の片脚の内側をとって引き上げながら、押し倒して投げる。

「掬投」(その3)は、
片手で、受の股間の前から深く差し入れて、その下半身を抱え、掬い上げて投げる。

この二つの技は、取が片手で抱える(又は、とる)部位は異なるが、その相違が技名称を決める基準とはならない。

「押し倒した(片足が上がって倒れる )」か、「掬い上げた(両足が上がって崩れる)」か、取の片手の「掛け」の作用によって、技名称を判断する。

ただ、一般的にみて、片脚に手をかけたときは、「押し倒す」(「朽木倒」)の作用に、片手を股間に深く差し入れたときは、「掬い上げる」(「掬投」)の作用になる場合が多い。

「朽木倒」は、古流柔術にあった技法で、あたかも“朽ちた巨木が根元から倒れる”形状から、技名称が名づけられたものと思われます。その技法は、流派によって違いがあったようですが、明らかではありません。

神田久太郎九段は、『巨人に対する技術の研究』中で、
『戸塚派揚心流(注・講道館創始期に対決した流派)の山本欽作師範に「朽木倒」の教えを受けた』と述べています。 (『柔道』講道館刊・昭和32年5月号)

また、広瀬武夫初段(日露戦争、旅順港閉塞作戦で戦死)が、講道館秋季紅白試合(明治23年)で抜群、二段に昇段したが、その試合の模様を父あてに書き送った書簡があります。

その中に、対戦した広岡勇司次初段は、
『関口流の免許取で、「朽木倒」を得意としていた』
と記していますが、『戸塚派揚心流』『関口流』、ともに類似した技法があったものと思われます。

『天神真揚流・柔術極意新習図解』にも類誌した技法が記されています。「投捨」(ナゲステ)二本目に「朽木倒」の技名称で解説しています。現在の乱取技の「朽木倒」の原形を識るうえに参考となりましょう。

この技法は、互いにすすみより、間合いに入って、受が打ちかかってきたとき、取は、その一瞬早く、勢いよく跳び込みながら、右掌で受の胸部を強く突くと同時に、左手で受けの右脚の膝裏を外側から払って倒す、要領です。

柔術では、投げるだけでなく、極め倒して、相手を完全に制圧することを目的としており、乱取技とは違いがあります。