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講道館長就任にあたって

講道館長 上村 春樹

 この度、嘉納行光前館長の後を受けて、講道館長に就任致しました。嘉納前館長から後任のお話を受けた時、私には荷が重すぎて一度お断りをしましたが、大勢の優秀な門弟がいる中からご指名を受けた栄誉を考えた時、今まで柔道から受けた様々な薫陶に対して恩返しをするためにも、微力ではありますが講道館柔道のために最善を尽すことが重要と考え、お引き受け致しました。大変な責任と緊張を感じずにはいられませんが、何時までもこの初心を忘れず全力を傾注して責任を果たしてゆきたいと考えております。

 講道館柔道は、嘉納治五郎師範が心血を注いで創り上げた日本が誇る文化です。その文化の源流を、多くの門弟たちが連綿と受け継ぎ、今日まで続いていることは周知の通りです。また講道館柔道は広く海外にも普及し、それぞれの国・地域では、それぞれの事情にあったかたちで発展し、多くの人たちによって受け継がれています。世界で一つの文化として受け入れられ、多くの修行者たちを魅了する講道館柔道の真髄である「精力善用」「自他共栄」を、いかにして後世に正しく伝承していくかが、私に課せられた使命であると受け止めております。

 講道館柔道の目的は、柔道修行を通して身体精神を鍛錬修養することで「己を完成し世を補益すること」、つまり「柔道修行を通した人づくり」です。それを具現化するためには「礼法を守り、正しく組み、理にかなった技で一本を取る柔道」を目指して修行を重ねてゆくことが重要です。

 また嘉納師範の「人間が組織する社会ではその大小を問わず、各個人が共々栄えていくような方法で結合していることが必要である。互いに合い助け、合い譲ることによって初めて自他共に栄えることができる。精力善用を社会全体の中で実行するには、自他共栄の原則によらなければならない」という言葉にあるように、相手を思う気持ち、相手に感謝する気持ちを忘れることなく、お互いが高まる方向で精進することを大切にする必要があります。そのためには、礼節を重んじることが大切になりますし、その上で創意工夫しながら一生懸命努力すること、我慢して続ける忍耐力や継続することの大切さを互いに感じることで人は成長し、自他共に栄えるのだと思います。

 「精力善用」、「自他共栄」は柔道の根本原理であると同時に、社会生活を送る上で規範とすべきものであります。この嘉納師範の崇高な想いを、全柔道人が深く認識し、正しい柔道の発展に繋げていかなければならないと思っております。

 今後、想いをかたちにすべく鋭意努力いたす所存ですので、各位のご理解とご協力の程、宜しくお願い申し上げます。